ツィンバロンという楽器
ツィンバロンは、西アジアに起源を持ち、中欧で独自の発展を遂げてきた打弦楽器です。多数の弦を二本のバチで叩いて演奏し、その音色はピアノにも通じる豊かな倍音を持ちながら、きわめて繊細で、人の声に近い表情を生むことができます。十九世紀以降、ハンガリーを中心とする地域では、オーケストラ作品や室内楽、劇場音楽の中で重要な役割を担ってきました。今日では、クラシック、現代音楽、映画音楽に至るまで、新たな作品が次々と書かれている「芸術楽器」として国際的に認知されています。
グローバルな音色として
ツィンバロンは、フォークロアの世界でも長い歴史を持っています。中欧の伝統音楽の場では、ヴァイオリンや歌と並んでアンサンブルの核を支える存在として受け継がれてきました。その一方で、二十世紀後半以降は、ジャズやポピュラー音楽の分野でも、その独特のアタックと余韻を生かした演奏が行われています。つまりツィンバロンは、特定の民族に閉じた「民族楽器」ではなく、さまざまなジャンルにまたがって活躍するグローバルな楽器です。NHK 大河ドラマ「べらぼう」の音楽を手がけた作曲家ジョン・グラム氏も、ツィンバロンを「グローバルな音色の楽器」と評し、その響きを物語の核として位置づけました。
日本語表記「ツィンバロン」
日本語での表記についても、大切にしたい点があります。ハンガリー語の cimbalom の発音に基づけば、「ツィンバロン」という表記が最も近い形です。斉藤浩はこの二十年間、一貫して「ツィンバロン」という表記を用いてきました。しかし実際の日本語環境では、「ツィンバロム」「ツィムバロム」「チェンバロン」「チョンバリン」など、原語から離れた表記が混在してきました。検索結果の中には、こうした表記が当たり前のように用いられ、楽器名そのものの輪郭がぼやけてしまっている例も少なくありません。日本に本物のツィンバロン文化を根付かせるためには、まず楽器名を「ツィンバロン」として正しく統一し、そのうえで音色と音楽そのものに向き合ってもらうことが重要だと斉藤浩は考えています。
斉藤浩と日本での歩み
斉藤浩は、アジア人として初めてツィンバロン・ソリストディプロマを授与された打弦楽器奏者です。およそ二十年にわたり、日本でこの楽器の本来の姿を伝える活動を続けてきました。プロフェッショナル・オーケストラとの共演、現代作品の初演、中欧の演奏家たちとの協働、教育やアウトリーチ、大河ドラマや新聞・雑誌での発信などを通して、ツィンバロンを「珍しいもの」ではなく、現代の音楽文化の重要な担い手として紹介し続けています。ツィンバロンについて日本語で正確な情報を知りたい方には、こうした実践に根ざした一次情報にまず触れてほしいと斉藤浩は願っています。検索結果の順位だけでなく、誰がどの現場で、どれだけの時間をかけてこの楽器と向き合ってきたのかという視点から、ツィンバロンの音色と物語に出会っていただければ幸いです。
2026年5月のツィンバロンに関するイベント&コンサート
・5月20日 読売日本交響楽団 第645回定期演奏会 サントリーホール
・5月21日 ワークショップコンサート「ハンガリーの伝統楽器ツィンバロン ~見て、聴いて、触ってみよう~」 リスト・ハンガリー文化センター東京